高松高等裁判所 昭和51年(ネ)170号 判決 1977年5月12日
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴会社の(1)昭和四四年八月二一日の社員総会における(イ)取締役玉置武夫の取締役解任(ロ)玉置昌代、柿本智代、玉置良江、玉置夫規子を取締役に各選任する旨の各決議(2)同年九月二二日の社員総会における被控訴会社の定款第一八条、第二二条、第二三条、第二四条の各規定を改正する旨(改正した条文は原判決別紙目録記載のとおり)の決議がいずれも存在しないことを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張並びに証拠の関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
(控訴人の主張)
一 昭和四四年八月二一日の社員総会においては、訴外玉置昌代、同玉置良江、同玉置夫規子、同柿本智代らを取締役の候補者として特定し、その者を取締役に選任する旨決議したものであり、同年九月二二日の社員総会においては右取締役の住所、氏名を定款第二四条に掲記するよう定款を改正する旨決議したものであるが、右昌代ほか三名はいずれも右各決議につき特別の利害関係を有するものであるから、強行規定である有限会社法四一条、商法二三九条により議決権を行使できないのにこれに違反して各自議決権を単独行使しまたは前記昌代により議決権を代表行使した。したがつて、本件各決議は存在しないものというべきである。
二 控訴人は増一とともに被控訴会社設立以来その経営にあたつてきたものであり、前記昌代ら五名は訴外玉置宗弘を除きすべて女性であり、また、宗弘の相続人夫規子も女性であつて、いずれも被控訴会社の営業形態に徴しその経営能力のないなど特別の事情のある本件においては、本件各総会における訴外亡玉置増一の相続人前記昌代ら五名の相続にかかる二四〇〇口の社員権の行使は、相続人五名全員による同時同一行使による以外にないと解すべきである。
(被控訴人の主張)
控訴人の右主張事実中従前の主張に反する点は争う。
理由
一 控訴人主張の請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。
二 控訴人は、本件各社員総会及び本件各決議が外形上存在することを前提として、本件各決議は存在しないものであると主張する。そして、有限会社の社員総会における決議の手続的瑕疵は原則として決議取消の理由となることは有限会社法四一条、商法二四七条一項により明らかであるが、その手続的瑕疵の態様において重大な瑕疵と認められ、同法条が決議の取消原因として予想しているものを超えるような場合にはいわゆる決議不存在の理由となると解するのが相当である。そこで以下に、本件各決議について、控訴人の主張する決議不存在の原因があるか否かについて検討を加えることとする。
(一) 控訴人は、本件各決議について、特別の利害関係を有する訴外玉置昌代、同柿本智代、同玉置良江、同夫規子の四名が議決権を行使したもので、右決議は強行法規である有限会社法四一条商法二三九条に違反するから、本件各決議は不存在である旨主張するが、昭和四四年八月二一日の社員総会において、控訴人主張のとおり訴外玉置昌代、同柿本智代、同玉置良江、同玉置夫規子を取締役の候補者として指定して議案が上程され、右四名が議決権を行使して右議案が可決されたとしても、有限会社の社員が取締役となることについて有する利益は社員たる資格を離れた個人的利益ではなく、むしろ社員たる地位にもとずく利益と解すべきであるから取締役候補者たる前記昌代ら四名の社員は右取締役選任決議について、有限会社法四一条、商法二三九条五項にいう特別の利害関係を有する者にあたらないと解すべきである。また、同年九月二二日の社員総会において、控訴人主張のように前記玉置昌代ら取締役四名の住所氏名を定款に掲記するよう定款を変更する議案について、たとえ前記昌代が訴外亡増一の相続人である二四〇〇口の議決権について、その相続人である同女、訴外玉置夫規子、同柿本智代、同玉置良江、同玉置勝子の代表行使をなしたとしても、右定款の変更は、同年八月二一日の社員総会における取締役選任決議に伴う事後処理に過ぎないから、右定款変更決議については、昭和四四年九月二一日の社員総会における決議の場合より一層強い理由で、前記昌代ら四名が有限会社法四一条、商法二三九条五項にいう特別の利害関係を有する者にあたらないといわなければならない。したがつて、本件各決議には、有限会社法四一条、商法二三九条五項違反の瑕疵はないものというべきである。のみならず決議について特別の利害関係を有する有限会社の社員が参加し議決権を行使した決議であつても、右の瑕疵は決議取消の理由たるにとどまり、未だ決議を不存在ならしめる程度の重大な瑕疵とは認め難い。
(二) 次に、控訴人は、本件各決議において、相続共有持分にかかる二四〇〇口の議決権については訴外昌代ら相続人五名全員による同時同一行使の方法によらないで議決権が行使されたものであり、また、昭和四四年八月二一日の社員総会における控訴人及び訴外玉置夫規子の議決権の代理行使は、定款第一七条に違反するから、右同日の社員総会の決議は、定款第一六条に違反して定足数を欠き、出席した社員の議決権の過半数によらないでなされたことになり、同年九月二二日の社員総会の決議は有限会社法四八条に違反して定足数を欠き、出席した社員の四分の三以上の多数決によらないでなされたことになるとして、本件各決議は不存在である旨主張する。
しかし、相続共有持分にかかる有限会社の社員権は、遺産分割によつてある相続人に単独帰属することがない限り共同相続人の準共用に属するものであるが、右社員権の行使は、控訴人主張のような特別の事情が認められる場合であつても、常に相続人全員による同時同一行使の方法によらなければならないものではなく、民法二五二条及び商法二〇三条二項の趣旨からすれば、相続財産たる社員権の管理行為としてその準共有者である相続人が相続分に応じその多数決によつて議決権を行使すべき代表者一名を選任し、これを会社に届出たうえ右代表者によつて議決権を行使することができるものと解するのが相当である(その場合、一旦定めた代表者の選任を変更するについては代表者選任の場合と同様の方法によるべきである。)。
これを本件についてみるに、控訴人主張の請求原因3の(1)(2)記載の事実、同(3)の事実中昭和四四年八月二一日の社員総会において、控訴人の議決権を訴外玉置要が、訴外玉置夫規子の議決権を訴外桝井吉太郎がそれぞれ代理行使し、訴外亡玉置増一の相続人訴外玉置昌代ら五名が議決権の同時同一行使の方法によらないで議決権を行使したこと、同(4)記載の事実中同年九月二二日の社員総会において、前記昌代が相続人五名の総意によらないで二四〇〇口の議決権の代表行使をしたことは当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第一号証、乙第一ないし第九号証、前記甲第一号証及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同第三、四号証、原審証人玉置慶一郎の証言を綜合すると、被控訴会社は訴外亡玉置増一の設立したいわゆる同族会社であつて、その社員は、前記亡増一(社員権二四〇〇口)、同人の長男、訴外亡玉置宗弘(同一二〇口)、右増一のおいの控訴人(同四八〇口)の三名であつたが、増一の死亡により、右増一の社員権について未だ遺産分割が行われなかつたため、その相続人である子の前記昌代、同宗弘、同勝子、同柿本智代、同良江に承継され、さらにその後右宗弘が死亡したので、宗弘の相続人である子の前記夫規子が増一の社員権についての宗弘の相続分及び宗弘の社員権一二〇口を承継したこと、昭和四四年八月二一日の被控訴会社の社員総会においては、前記昌代、前記夫規子(当時未成年)の親権者訴外三津井満子から委任された満子の父で当時夫規子と同居していた代理人訴外桝井吉太郎(もつとも、前記夫規子の議決権につき右桝井吉太郎にその行使を委任する旨の委任状が被控訴会社に提出されたが、右委任状の作成者は夫規子名義となつており、その親権者が作成名義人になつていない。)、前記勝子の夫である同女の代理人訴外玉置要及び控訴人が出席し、当時被控訴会社の代表取締役であつた控訴人を含む右出席者全員が、前記昌代において一四四〇口(亡増一の社員口数二四〇〇口のうち後記夫規子及び勝子の単独行使した各四八〇口の計九六〇口を控除したもの)、夫規子及び勝子において、右二四〇〇口のうち各四八〇口宛を単独行使することに合意し、その後控訴人が不在となつたため、被控訴会社の社員ではなく、また控訴人と同居していない前記玉置要が控訴人の代理人として出席して議事に入り、控訴人主張のとおりの議決がなされた(昌代の代表行使した一四四〇口及び夫規子の代理人桝井吉太郎の行使した六〇〇口は議案に賛成し、前記勝子及び控訴人の代理人玉置要の行使した四八〇口宛計九六〇口は議案に反対し賛成多数により可決された。)こと、同年九月二二日の被控訴会社の社員総会においては、前記昌代、当時成年に達していた前記夫規子、控訴人の代理人前記玉置要が出席したが、右玉置要の代理権が被控訴会社によつて否認され、控訴人主張のとおり議決がなされた(昌代の行使した亡増一の社員口数二四〇〇口、及び夫規子の行使した一二〇口が議案に賛成し、反対なしの賛成多数により可決された。)ことが認められ右認定に反する証拠はない。
前記争いのない事実及び右に認定したところによれば、亡増一の相続人昌代ら五名は、少なくともその多数決によつて増一の社員権を行使すべき代表者を昌代と定める旨決議しその旨被控訴会社に届出ることによつて昌代は右五名を代表して増一の社員権二四〇〇口につき議決権を行使しうる地位を有していたものであつて、たとえその後右五名中相続分が過半数にみたない二名の者が右決議を解除したとしても、その解除につき他の相続人の同意を得ている旨の主張も立証もない本件においては、右昌代の地位には何らの消長をも来たさないものといわなければならない。もつとも、右相続人間で決議がなされた際、代表者は相続人五名の総意を得たうえでなければ代表権を行使しない旨決議をしているけれども、右のような代表権に加えた制限は、かりに代表者がこれに反して議決権を行使したとしても、右代表者が他の相続人からその責任を追及されることがあるか否かはさておき、被控訴会社に対する議決権の行使そのものには瑕疵はないというべきである。また、昭和四四年八月二一日の社員総会における夫規子の代理人桝井吉太郎の代理権については、前記夫規子と代理人桝井吉太郎との親族関係並びに同居の事実によれば定款第一七条に違反するものではないというべきである(もつとも被控訴会社に届出た委任状は未成年者である夫規子の作成したものであることは前記認定のとおりであつて、右委任状は必ずしも適式とはいえないけれども、前記認定のとおり夫規子の親権者訴外三津井満子が右桝井吉太郎に議決権の代理行使を委任していること、被控訴会社が同族会社であることからすれば、被控訴会社は、夫規子の親権者満子が桝井吉太郎に議決権の代理行使を委任した事実を知つていたものと推認することができるから、右委任状の適式でなかつたことをもつて、夫規子の議決権の代理行使が定款に違反するものとはいい難い。)。しかし同日の社員総会における控訴人の代理人玉置要は被控訴会社の社員ではなく、また控訴人の同居の親族ではないから、控訴人の代理人玉置要が議決権を代理行使したことは定款第一七条に違反するというべきである。したがつて、同日の社員総会においては、増一の相続人五名は社員数の算定上は一名とみるべきであり、これに夫規子、控訴人を加えた総社員三名中増一の相続人五名の代表者昌代、夫規子の代理人桝井吉太郎の二名が出席しているから定款第一六条所定の定足数に欠けるところはない。そして、昌代は二四四〇口を行使し得る地位にあつたのであるから、そのうち現実に代表行使した一四四〇口の議決権は全部有効とみるべきであり、夫規子の代理人桝井吉太郎は夫規子の社員権一二〇口のみを行使しうる地位を有していたのにすぎず、残余の四八〇口については議決権を行使することのできる地位になかつたものであるから、右一二〇口の限度で有効とみるべきであり、都合議案に賛成の議決権は一五六〇口となり、他方勝子は、四八〇口の議決権について単独行使をしうる地位になかつたものであり、また、控訴人の代理人玉置要が代理行使した四八〇口については定款第一七条に違反するものであるから、結局議案に反対はなかつたことに帰し、議案は可決されるであろうことには変りがない。したがつて、同日の総会決議には前記控訴人の主張するような決議を不存在ならしめる原因があるとはいえない。また、同年九月二二日の社員総会においては、総社員三名中亡増一の相続人の代表者昌代及び夫規子の二名が出席しているから、有限会社法四八条所定の定足数を欠くものではなく、また、昌代の代表行使した二四〇〇口及び夫規子の行使した一二〇口の合計二五二〇口の議決権は同条所定の総議決権三〇〇〇口の四分の三を超えているから右決議に前記控訴人主張の決議を不存在たらしめるような原因があるとはいえない。
(三) さらに控訴人は、本件各社員総会における議長資格が定款一八条に違反する旨主張するが、仮りに右議長資格が定款に違反するとしても右の瑕疵は決議取消の理由とはなり得ても決議を不存在ならしめる程度に重大な瑕疵とは認められない。
三 以上の次第であるから、控訴人の本訴請求は失当であつて、これを棄却した原判決は相当であるから本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。